2025/05/28

Taiwan Today

経済

先住民族の集落を活気づけるレッドキヌア

2017/06/05
わずか8年前まで、台湾南東部・台東県におけるレッドキヌアの作付面積は1ヘクタールにも満たなかった。現在、同県ではレッドキヌアの作付面積が200ヘクタールを超えるほどになっている。レッドキヌアの生産拡大は若者たちのUターン就職を促し、集落を活気づけている。(中央社)
わずか8年前まで、台湾南東部・台東県におけるレッドキヌアの作付面積は1ヘクタールにも満たなかった。それを「産業化」したのが「レッドキヌアの父」と呼ばれる行政院農業委員会(日本の農林水産省に相当)台東区農業改良場の陳振義副研究員だ。現在、同県ではレッドキヌアの作付面積が200ヘクタールを超えるほどになっている。
 
レッドキヌアはそれまで、先住民族たちが水田の傍らで、酒造りの原料にするために栽培していたものだった。陳副研究員は9年前に台東を訪れ、先住民族の部落でレッドキヌアを発見した。それ以来、さまざまな品種のレッドキヌアを探し求めて歩いた。その範囲は台東県と、その隣にある屏東県の先住民族の集落に及び、最終的に36品種を探し出すことに成功した。
 
屏東県と台東県のレッドキヌアには大きな違いがあった。色だけでなく、丈も違った。例えば屏東県の瑪家集落に分布するレッドキヌアの丈はわずか75㎝程度。一方、台東県達仁郷の南田集落のものは280㎝程度に達する。
 
陳副研究員は、レッドキヌアに含まれる栄養価が非常に高いことを確認すると、行政院農業委員会水土保持局台東分局の王志輝局長と協力し、レッドキヌアの生産を奨励し始めた。そして、わずか1ヘクタールにも満たなかったレッドキヌアの作付面積を200ヘクタールまで広げることに成功した。なお、キヌアの栄養価の高さは米宇宙航空局(NASA)も認めるところで、NASAは1980年よりキヌアを「宇宙食」に指定している。
 
レッドキヌアの生産拡大は、故郷を離れた若者たちのUターン就職を促した。その代表的なメンバーがパイワン族出身の呉正忠さん、高世忠さん、樊永忠さん、林建中さんの4人。台東県で「南廻四忠」と呼ばれる若者たちだ。そのうちの最年少者、32歳の呉正忠さんは年収400万台湾元(約1470万日本円)に達している。
 
若者のUターンだけでなく、先住民族の集落にも活気を与えた。王志輝局長は、民間企業に協力を求めるために奔走した。その結果、現在は食品大手の義美食品(I-MEI)やモスバーガーなどが先住民族の集落と契約を結んでいる。今年の端午節(旧暦5月5日、今年は新暦で5月30日)にはレッドキヌアで作ったチマキまで登場した。水田の雑草扱いだったレッドキヌアが、いまでは高い経済価値を持つ農産品になっている。
 
レッドキヌアが注目される中、先住民族との関係についても関心が高まっている。歴史研究家の蘇金城さんは、先住民族ルカイ族に伝わる、人間と百歩蛇のラブストーリーに出てくる「七彩琉璃珠(七色のトンボ玉)」が実はレッドキヌアを指しているのではないかとの仮説を立てている。
 
この伝説の舞台はいまから数百年前、ルカイ族の祖先が海抜2,000メートルにある肯杜爾山に住んでいたころのこと。ルカイ族の頭目の愛娘「Balenge姫」は、「小鬼湖」で優しい美男子「Adalio」と出会い、恋に落ちた。
 
しかし「Adalio」は実は、「大鬼湖」と「小鬼湖」(いずれも中央山脈の南にある湖)を守る百歩蛇の王の化身だった。頭目や集落の長老たちは皆、二人の結婚に反対した。しかし、百歩蛇の王の意向に面と向かって逆らうこともできず、仕方なく二人の結婚に厳しい条件を課した。それは海にあるという「七彩琉璃珠」を、結納の品として差し出すということだった。高山に住む百歩蛇は幾多の苦難を経て海までたどり着き、「七彩琉璃珠」を持ち帰り、無事に「Balenge姫」を嫁として迎えることができたと言われている。
 
蘇さんは、ルカイ族にはかなり昔からトンボ玉を作る習慣があったが、肯杜爾山に住んでいた時代はまだその習慣はなく、ましては「七色」のトンボ玉を作る技術もなかったと推測。「七彩琉璃珠」とは空に掛かる虹、またはレッドキヌアを指しているのではないかとの仮説を立てている。
 
それがレッドキヌアである場合、2つのケースが考えられる。ルカイ族が肯杜爾山に住んでいた時代、その海抜や当時の農耕状況から考えても、ルカイ族の集落ではおそらくレッドキヌアを生産していなかった。このためレッドキヌアは非常に貴重で、それを手に入れるためには、幾多の苦難を乗り越え、他部族による首狩りに遭う危険も承知の上で、パイワン族の集落まで取りに行く必要があった。それゆえ、「Balenge姫」の父親はレッドキヌアを結納の品に指定したのではないかと考えられる。
 
もう一つは、百歩蛇の王は、山を下りて海へ向かった。その途中、百歩蛇はパイワン族の集落で、まるで虹色のように鮮やかな色彩を放つレッドキヌアを発見した。パイワン族の集落では、すでに300~400年前にはレッドキヌアを栽培していることが分かっている。百歩蛇の王は、これを「七彩琉璃」だと考え、持ち帰って「Balenge姫」を嫁に迎えたのではないかというものだ。
 
蘇さんは、いずれにしろレッドキヌアがルカイ族の伝説と関係があるとすれば、レッドキヌアは単に栄養価の高いスーパーフードとしてだけでなく、ラブストーリーの要素も加わり、そして人間と百歩蛇の伝説も、より現実性のあるものとしてとらえることができると指摘している。
 

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